手指消毒について
こんにちは、いつもブログをご覧いただき誠にありがとうございます。
今月は院内感染対策チームがブログをお届けさせていただきます。
新型コロナウイルスの流行に伴い、消毒用アルコールを目にする機会が増え、また使用する機会も増えたと思います。アルコール消毒は感染対策としてもちろん有効であるものの、すべての病原体に対して効果があるわけではありません。正しいアルコール消毒の利用方法などをお伝えできればと思います。
アルコールでなぜ消毒される?
消毒用のアルコール濃度は「100%に近い方が効果的」と思われている方も多いのではないでしょうか?実は100%のエタノールにはほとんど殺菌・消毒力がありません。
◇日本
・日本の消毒用エタノール(アルコール)濃度:76.9~81.4%
・厚生労働省通達のコロナ対策:原則70~95%
◇国際
・CDC(米国疾病予防管理センター)ガイドライン:60~95%
・WHO(世界保健機構)ガイドライン:80%
(出典 SAYARA)
と、おおむね70~80%の濃度が推奨されています。高濃度のアルコールには脱水作用やタンパク質の変性作用があり、細菌やウイルスの外側の壁を壊すことで殺菌作用を発揮します。
アルコールで殺菌できない病原体
芽胞(がほう)という外側に厚い壁を作る細菌は、アルコールにより破壊することができず、芽胞を形成する細菌に対する殺菌作用は期待できません。食中毒の原因となるウエルシュ菌やボツリヌス菌、セレウス菌などが芽胞を形成する代表的な細菌です。芽胞は熱や乾燥にも強いため、芽胞を殺菌するには乾燥状態では180℃で20分程度、湿熱状態では高温高圧釜(レトルト)での121℃で15~20分の加熱が必要です。カレー、スープ、肉団子、チャーシュー、野菜の煮物など肉類、魚介類、野菜を使用した煮込み料理で食中毒が報告されています。加熱調理した食品に芽胞が残存していることがあるので、すぐに食べないときは発育しないよう、できるだけ早く低温にするなど、温度管理に注意する必要があります。
アルコールはウイルスの外側のエンベロープという膜を破壊することで、ウイルスを殺菌します。しかし、エンベロープを持たないウイルスには、アルコールの効果が低下します。エンベロープを持たないウイルスとしては、ノロウイルス(胃腸炎)、ロタウイルス(胃腸炎)、ポリオウイルス(急性灰白髄炎)、アデノウイルス(咽頭結膜熱(プール熱)、流行性角結膜炎(はやり目))、エンテロウイルス(手足口病)、コクサッキーウイルス(手足口病、ヘルパンギーナ)などが挙げられます。アルコール消毒の効果が低いウイルスの感染予防としては、石けんと流水による手洗い、環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用することが推奨されます。
これから流行していく感染症に対して
冬に流行する感染症として、インフルエンザや、RSウイルスなどの呼吸器感染症と、ノロウイルス、ロタウイルスなどによる感染性胃腸炎などがあります。感染性胃腸炎の原因となるノロウイルス、ロタウイルスにはアルコール消毒が効きづらいことは上記のとおりです。石けんと流水による手洗いを行いましょう。
インフルエンザや、RSウイルス、新型コロナウイルスなどについては、アルコール消毒が効果的です。しかし、アルコールが効果的なウイルスであってもアルコール消毒で感染が完全に防げるわけではありません。病原体の感染経路としては、「空気感染」「飛沫感染」「接触感染」があります。アルコール消毒は「接触感染」を予防する効果しかなく、咳やくしゃみによる「飛沫感染」に対して効果はありません。マスクの装着による「飛沫感染」への対策が必要となります。自身が感染症にかかっている可能性がある場合あるいは高齢者や入院患者さんなど免疫力が低下していると考えられる方と接触する場合は、アルコール消毒による「接触感染」予防に加え、マスク装着による「飛沫感染」予防が感染症対策として効果的です。
正しいアルコール消毒とは
手にしっかり適量を取り、揮発するまで15秒以上こすり合わせることが必要です。また、15秒経つ前に消毒剤が乾いてしまったら、消毒剤を付け足すことが必要です。塗り残しがないようにまんべんなく塗り広げてください。指先から手首にまでしっかりと消毒剤をすり込むことが大切です。